日差しがまぶしくて、テスはまばたきをした。苦い海水がこみ上げてきて喉がつまる。テスは咳きこみ、力なく吐いた。ここは船の上。横たわる床がいつまでも揺れ続けている…。今までの出来事が脈絡なく浮かんでは消えていく。わたしはキーウェスト沖で潜っていた。そして古いネックレスを見つけ、突然激しい潮の流れに巻きこまれ…おぼれて…ここにいる。見ると大勢の粗末な見なりをした男たちに、まわりをとり囲まれていた。でも彼らがしゃべっているのはスペイン語みたいだ。と、男のいかつい手が何本ものびてきてテスを乱暴に立たせた。さらに剣とかぶとを身につけた軍服姿の男が現れ、男たちに命令を飛ばす。ここは帆船の上。三本マストのてっぺんに風にはためく長旗が見えた。あれは十七世紀のスペインの旗。大学で歴史を学ぶわたしにはよくわかる。スペインのガリオン船…これは全部現実なの。ついさっきまで、二十世紀のフロリダで海に潜っていたはずなのに…。
#並程度/表紙に少し傷あり。
#160g